「お父さん、この福袋買ってよ!!」
おもちゃ量販店のチェーンストアで、父親にねだる活発そうな息子。
どこにでもありそうな光景だ。
「ダメじゃカツオ。うちは貧乏なんだから・・・」
磯野カツオの願いを申し訳なさそうに却下する父、磯野ナミヘイ。
昔は威厳もあったのだが、今はすっかり痩せ細り、かつての面影は無い。
カツオの姉、サザエと結婚して婿養子として迎え入れたマスオという男がとんでもない男で、
酒と女とギャンブルに狂い、それが原因で磯野家は借金まみれになってしまったのだ。
福袋も満足に買えないほどに、家計は圧迫していた。
いつも嗜好品を配達して貰っていた酒屋の気のいい店員、サブちゃんも最近は訪れなくなった。
サザエも以前は天真爛漫で明るい女性だったのだが、
今や、お魚くわえたドラネコを裸足で追っかけて行く余裕も愉快さも、
「さーて来週のサザエさんは? 『ノリスケ、心の向こうに。逆襲の中島。タラちゃん&イクラちゃんのコンビネーション』の三本です。来週もまた見てくださいねぇえぇ! じゃんけん・・・ポンっ! うふふふフふふふ」と次回予告する気力も消え失せていた。
「あら、磯野くん」クラス1のブスであり金持ちである、不動産の令嬢、花沢ハナコが現れる。
「はっ、花沢さん!?」驚くカツオ。
「どうしたの? 福袋が欲しいの? 買ってあげようか? そのかわり・・・私の足を舐めるならね!」
「ふざけないでくれ! それぐらいなら伊佐坂先生に身体売るわい!!」
と突っ撥ね、立ち去るカツオ。伊佐坂先生というのが誰の事なのかは定かでは無い。
「カツオ・・・」神妙な面持ちで何かを決意するナミヘイ。
それから数時間後。
「おーい、カツオ」ナミヘイがカツオの部屋に入る。
「なんか用?」素っ気無く答えるカツオ。
「これを見てくれ!」大量のレジ袋を差し出す。
「なんだいそれは?」奇異な目で尋ねるカツオ。
「福袋じゃよ! それぞれ、色も形も違う石が一杯入ってるぞよ!! ワシが川原で拾って来たんじゃ」
得意気に豪語するナミヘイ。
「ふざけるなぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!!」と突き倒し、部屋から飛び出すカツオ。
「カツオ・・・。うう、すまん・・・。すまん・・・。ワシが不甲斐無いばかりに・・・」
ロボットアニメの金字塔『機動戦士ガンダム』のナレーションみたいな声で泣き崩れるナミヘイ。
息子のために頑張って石を拾った意思が通じないとは、なんと悲劇なのだろうか。
数十分後。
「おーい磯野。野球しようぜっ!」カツオの唯一無二の親友、中島ヒロシが磯野家を訪れる。
「中島くんか・・・。すまない。カツオは出かけている」ナミヘイが応対する。
「あっ、そうなんですか? 磯野のお父さん・・・。どうしたんですか? なんか元気ないですけど」
何時もの威厳の欠片を微塵も感じないのを不思議に思い、尋ねる。
「実は・・・、」
誰かに聞いて貰って少しでも気を楽にしたかったのか、包み隠さず話すナミヘイ。
「なんだって!?」驚く中島。
「あのバカやろう・・・」
普段の温厚な中島からは想像もつかない形相で、走り出す。
「磯野おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
空き地のドカンの上で黄昏ていたカツオを、石を握った拳で殴り倒す中島。
「うぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!!!!」
「痛いか?」
「当たり前だろ!!」
「でもな、お前のお父さんはもっと痛かったんだぞ・・・!?」
「・・・!?」驚くカツオ。
「うう・・・」泣きながら、去って行く。
物陰から一部始終を見物していたクラスのアイドル、大空カオリが現れる。
「磯野くん、大丈夫かしら?」と中島に尋ねる。
「磯野なら大丈夫さ。それより、コンドーム買わないと!!」と、カオリを抱きしめる中島。
「もう、中島くんったらぁあぁぁ///////」
テレながらも喜ぶカオリ。
そんな赤裸々なやり取りを知る由も無く、川原で1人佇んでいるカツオ。
すると、変な家族がいた。どうも、石を集めているようだ。
「何をやってるんだ?」と不思議に思うカツオだったが、
なんとそのシルエット達の正体はカツオの姉のサザエ、妹のワカメ、甥っ子のタラちゃん、母親のフネ、
従兄弟のノリスケ、飼い猫のタマ、通りすがりのお節介焼き田中、
30枚目のニューシングルにして最高傑作の、Family~ひとつになること(作曲:堂本光一)を作詞した、
人気デュオKinKiKids(キンキキッズ)の堂本剛だった。
「みんな・・・!?」
何をやっているんだろうと、こっそり近付き聞き耳を立てるカツオ。
「きっとカツオは石の色とか大きさが気に入らなかったのね。まったく、困ったものだわ」
サザエがぶつぶつ言いながらも楽しそうに石を拾っている。
「でもこういうのも楽しいですよね」ノリスケが言う。
「お兄ちゃん、喜んでくれるかな?」ワカメが尋ねる。
「きっとよろこんでくれるですよぉ!」タラちゃんが言う。
「田中くん。剛くん。ありがとうね」フネが二人にお礼を述べる。
「いやいや、こんな美人達のお役に立てるなんて嬉しいですから」同時に述べる堂本剛と田中。
「はっはっはっはっはっはっ」「にゃあーん」一同が声を合わせて笑っている。
「僕は・・・。僕は・・・。なんて嫌な奴なんだ!!」
カツオのために石を拾っているみんなの意思を確かに感じ取り、猛省したカツオは魚屋に向かった。
責任を取ろうと決心したのだ。
タイコさん「えっ!? 鰹(かつお)のタタキが、1パック10円? 本当ですか?」
魚屋さん「へい! 新鮮ですよ!!」
イクラちゃん「ちゃーん・・・。ちゃーん・・・」
タイコさん「じゃあ1パックくださいな。イクラ、どうしたの!? なんでそんなに悲しそうな目で鰹のタタキを見詰めてるの?」
イクラちゃん「ちゃーん・・・。ちゃーん・・・。ちゃーん・・・」