
熊本県熊本市。豪邸に住む、KinKiKids(キンキキッズ)30枚目のニューシングルにして最高傑作の、
Family~ひとつになること(作詞:堂本剛)を作曲した堂本光一ばりにイケメンの青年は、
休日の昼下がり、自室で優雅な一時を過ごしていた。
そこに、北乃きい似の彼女が訪問して来た。悩みがあるから聞いて欲しいらしい。
「どうしたんだい?」優しく尋ねる青年。
「ブログに、ブログに書くネタが無いんですっ・・・!!」
抑揚を高くし、悩みを発露する彼女。
この青年は、日本一面白凄いブログ、愛する人への恋文(
http://20yearsafterlove.blog.2nt.com/)の主でもあったのだ。
天は二物も三物も与えるとは、なんと不公平なのだろうか。
「ネタが無い? それはおかしいなー」あっけらかんと答える青年。
「えっ・・・?」
「ネタが無い、なんて事はありえないんだよ。『時間が無い』のと一緒でね。そんなのは、無能の言い訳に他ならない。いいかい?」
と、デスクトップの高級パソコン前に座ると同時に電源を入れ、隣に立つよう目配せする。
「・・・」黙って、隣に来る彼女。
「いいかい? まずこれを見てくれ」と、人差し指でキーボードのF5を指差す。
「・・・???」
「その右には、F6。その左には、F4があるね?」
「そりゃそうですけど・・・」
「だったら、君の周りにはネタが溢れてる事にも気付いただろう? これで一つネタが出来ただろう?」
「???」
「何故なら、『F5の右にF6がある、F5の左にF4がある』って再確認、当たり前の事、だけで記事に出来る人は、余程自分自身に確固たるプライドや意地を持ってる人だ。中途半端にプライドが高いカスには出来ないだろう」
饒舌に、スラスラと語る青年。
「でも、そんな表現でいいんでしょうか?」
恐縮しながら訊いて来る彼女。
「『表現』って聞くと難解で重いイメージがあるから、身構えるんじゃないだろうか? 表現の始原から語ろうか? 子供が母親に、『お母さん! 庭に花が咲いてるよ!!』って言うのも、立派な表現なんだ。『庭に花が咲いたからそれを母親に見て欲しい』って、そういう直接的な所から『表現』は始まり、やがて人間は距離が離れている人に『花が咲いた』という事を伝える為に試行錯誤を始めた」
「・・・」本や何かからの受け売りのような有難い高説を、黙って聴いている彼女。
「誰かに伝えたいと思える『何か』を集められる、感じ取れる、発信出来る人は豊かな毎日を送れる事だろう。逆に、『花が咲いたかどうかなんて気にならない、興味無い』って人は、巨万の富を得たとしても、本当の意味で貧しいのではないだろうか?」
語り終えた青年は、デスクトップ隣の置物の上に乗ってある飲料に手を伸ばす。
「なるほど・・・」彼女は、ただただ感動し、言葉に詰まる思いだった。
「ブログバトンから避けてる俺が言うのも憚れるけど、要は『こんな事をしたぐらいで自分の価値は下がらない』って、自分の価値をちゃんと持って欲しいんだ。ほとんどの人が中途半端に人間気取って中途半端なプライドに固執して『こんな事』も出来ないからね。その程度で下がる価値だと思って怖がってるからね」
「はいっ・・・」相槌を打つ彼女。
「さっきの例題で言うなら、『F4って、花より男子(著:神尾葉子)かw』って応用も考えられるね」
「花より団子・・・?」怪訝として尋ねる彼女。
「えっ? 知らないの?」
「ごめんなさい・・・」
名作少女漫画を知らないとは信じ難い話だ、別れようかな・・・と思ったが、青年は何とか思い止まった。
「まあそれはさて置き、君の家にはコップはないの? 蛇口捻ったら水が出る環境は無いの? 外に出て天を見上げたら、空と雲と対話出来る環境は無いの? 小便を出せる環境は無いの? パソコンのキーボードを観察出来る環境は無いの?」質問攻めにする青年。
「いえ、全部備えてる環境ですが・・・」
「非常に恵まれた環境じゃないか、ネタの宝庫じゃないか」
「はい、ありがとうございます・・・。ありがとうございます・・・」
どれだけネタに恵まれた環境なのか、表現をするためのお膳立てをされてたのか再確認出来た彼女。
「気にするなよ、愛してるよ」
「私も、愛してます・・・」
その後はベッドの中で、少ないネタの引き出しなので、逆に彼女から教えを請う青年であった。
「はっ、夢か・・・!?」
すべては、熊本県熊本市の薄汚い家に暮らす薄汚いひきこもり青年の夢だった。
考えてみたら彼には彼女もいないし、それ以前にリアルで人と話せない。
そしてその日の夜。
「さて、ブログでも書くかー・・・」
と、パソコンに向かうが、
「ううーん・・・」
と項垂れた後、
「ネタが無いなー・・・」