汚いアパートの一室。育児に疲れ果て、精神的に困窮しているシングルマザーがいた。
まだ幼い少年の足や背中には複数のアザがあった。
「待て!!」
そこに、正体不明の屈強の青年が現れる。
「児童相談所の人? 福祉事務所の人? まあどうでもいいけどね・・・」
母親は観念し、面倒臭そうに淡々とそう述べた。
「違う、自分は『吉野家』の者だ・・・!!」
「はぁ?」
事態が飲み込めない母親は少し切れ気味だった。
母親と児童を引っ張る青年。最初の内は軽く抵抗もしていたが、既に無気力無関心なのですぐに観念した。
連れて来られたのは、大手外食チェーンストア(牛丼屋)の有名店『吉野家』だった。
自分は立ったままで、二人をカウンター席に座らせる青年。
夕飯時だというのに、母子を除き、KinKiKids(キンキキッズ)のメンバーの人数ぐらいの客しかいなかった。
「おい、なんだよ???」
「牛丼並、二杯だ」母親の疑問を無視し、店員にそう告げる青年。
「おいなんだよ・・・牛丼なんて・・・」
「黙ってろ」と、一蹴する青年。その言い知れない不思議な眼力に圧倒され、黙るしか無かった母親。
そして数分経過した後、「おまちどうさまーでしたー」と、牛丼並が二杯運ばれて来る。
「食え」と、暗黙の重圧を与え母子にそう申し付ける青年。
「・・・」
観念して、牛丼を口に運ぶ母親。
すると・・・、
「うめえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええぇぇぇぇぇぇええ!!!!!」
母親は思わず叫んだ!
「なっ、なっ、なっ、なっ、なんて美味いんだ・・・!!
この世には、こんなに美味しい食べ物があったのか・・・」
家庭では絶対に、絶対に出せない、絶対に出せない、絶対に出せない、
吉野家牛丼の、吉野家牛丼の、タマネギの旨みと肉の華麗な香りに感涙する母親。
「そうだろう・・・そうだろう」予想通りのリアクションに、強く頷く青年。
「しかも、水じゃなくてお茶なんですよ。紅生姜取り放題なんですよ」と得意そうに店員が割り込み、述べる。
「まじかよぉぉぉおおおおぉ!! 吉野家すげえぇぇぇぇ!!」と驚嘆する母親。
「いや、松屋も、すき家も、紅生姜は取り放題だと思うんだが・・・」
と他の客が割り込んだが、その客は屈強な男衆に、何処かに連れ去られてしまった。
「しかも吉野家は、割り箸を廃止してプラスチック箸を導入してるんです!
『エコでクリーンな店』を提唱ですから!」と、もう一人の店員が万年の笑みで割り込む。
「まじかよぉぉぉぉおおお! 地球に優しい吉野家最高!!!」やはり驚嘆する母親。
「いや、それこそ何処の外食産業も『とりあえずエコしてますアピールしよ』って導入してると思うが・・・
実際には割り箸は使わなくなった木材で製造するから、エコでもなんでも無いんだが、
『とりあえず廃止すれば客からの好感度が上がる』って短絡思考でさ」
と他の客が『触れてはいけない正論』で割り込んだが、覆面をしている謎の部隊に連れ去られてしまった。
「しかもしかも、吉野家は、『客との触れ合いを大切にする』って理由で、
一貫して食券システムを行わない方針なんです」と、黙って聞いていた青年が最後に強く断言した。
「まぁ、『松屋のパクリ』とか『松屋に対抗した』とか言われるのが嫌で、
無能な経営陣が意固地になってるだけですけどね!
『食券機があったら客と触れ合えない』って理論は意味不明過ぎますしね!」と二人の店員が突っ込む。
それは聞かなかった事にして物語は進む。
「世の中にはこんなに美味しい食べ物があるのに児童虐待してたなんて、私はどうかしてました・・・
もうこんな事はやめます・・・すいませんでした・・・」
「そうだろうそうだろう・・・誰だって死にたくなったり、苦しんだり、怒る事はあるだろう。
だが、だが・・・そんな時でも、吉野家の牛丼は何時でも暖かく待っててくれてるんだよ」
「はい・・・はい・・・ごめんね・・・ごめんね・・・」母親は泣きながら、愛する息子を抱きしめる。
「お母さん、ほっぺに、ごはんつぶがついてるよ」笑いながら母親のほっぺを触る少年。
「はははははははははははは」その微笑ましい光景を見て笑う一同。
児童虐待の真実を抉り続け187話も続いた今作『児童虐待物語』であったが、
僕等の吉野家のお陰で、大団円の最終回であった。
ふと辺りを見回すと、国民的アイドルグープのSMAP(スマップ)がいた。
木村拓哉くんも中居正広くんも草なぎ剛くんも香取慎吾くんも、もう一人の人も、
みんな美味しそうに吉野家の牛丼を食べていた!
「こんなに凄い人達も吉野家の牛丼が大好きなんだなあ!」と思う少年。
「ソレハチガウヨ」と『チョナンカン』が話しかけて来る。
「えっ?」
「吉野家の美味しい牛丼が大好きって気持ちに、凄いも凄く無いもナイデショ?」
「はっ、はい・・・」
そして、
「世界に一つだけの~吉野家牛丼。一つ一つ、違う味を持つ。
そのドンブリの中の飯を食べる事だけに、一生懸命になればいい~」
と名曲『世界に一つだけの吉野家牛丼』を熱唱していた。
「ぐすん・・・」と感動する母子。
ふと気付くと、乙武洋匡や、大国の英雄や戦火の少女もジャスラック○の人も、
吉野家の牛丼を美味しそうに食べていた。
どれもみんな同じ美味しそうな顔だ。
吉野家の牛丼を美味しいと感じる心には人種も国籍も障害も関係無い。
それぞれ重さの同じ、尊ぶべき生命なのだから・・・。
スマップは持ち帰りで牛丼を注文していた。
「へー、吉野家って持ち帰りも出来るのね!!」と、説明口調で感心する母親。
「やっぱ牛丼は松屋○よりもすき家○よりも、なんてったって吉野家だよなぁ!」
「まったくだぜ!!」
「ぶっちゃけ、男連れじゃ無い女性客も一杯いるくね?」
「女性だけで吉野家に牛丼食べに来ても別に恥ずかしく無いべ?」
と、棒読みで不自然な会話をしながら立ち去るスマップであった。
上戸彩も北川景子も堀北真希も長澤まさみも石原さとみも北乃きいも本仮屋ユイカも前田敦子(AKB48)も、
「美味しいなぁ、美味しいなぁ・・・吉野家牛丼は本当に美味しいなぁ」と美味しく食べていた。
私立桜が丘高校の軽音(けいおん)楽部の女子生徒達も、青春学園中等部のテニス部員達も、
神奈川県立湘北高等学校のバスケ部員達も、誠凛高校バスケ部達も、
選ばれし108星達も、崑崙山脈の仙人達も、Z戦士達も
県立北高校のSOS団(エスオーエスだん)達も、室江高校の女子剣道部の面々も、
ふたば幼稚園に通ってる幼稚園児たちも、特務機関ネルフのチルドレン達も、
埼玉県立西浦高校の野球部員達も、しかばね老人クラブの田中さん達も、
エギーユ・デラーズが率いたジオンの残党組織達も、麦わら海賊団も、
自由惑星同盟の提督達も、球川小学校のドッジボール部員達も、
キン肉マンも、漫画家『ゆでたまご』も・・・。
みんな、みんな吉野家の牛丼を美味しそうに食べていた・・・。
吉野家、牛丼並盛・・・380円。
380円で救える命が、ある。380円で手に入る感動が、ある。380円で止められる、児童虐待が、ある。
アナタも、辛い事、悲しい事、苦しい事があったら、吉野家牛丼を食べに行きましょう。
問題は解決しないでしょうけど、それでも、それでも、
吉野家の牛丼は・・・美味しいのだから・・・。
完
長らくのご愛読ありがとうございました
※この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは『一切』関係ありません