この作品を
富野由悠季氏に捧ぐ
・・・『機動戦士ガンダム』・・・。
それは、アニメ好きなら勿論、 アニメに詳しくない人も高確率で認知している、 日本が誇るカルチャー文化の代表格の一つだ。
後のロボットアニメが影響を受けているのは言わずもがなとして、ロボットアニメでは無いアニメも無意識的、少なからず影響を受けているアニメである。
『アニメ』という枠で作品を作る以上は、絶対に避けて通れない名詞が『ガンダム』なのである。
中には「ガンダムに影響なんて受けてない」と、ガンダムを気にしていない事を過剰に気にし過ぎている、
本末転倒なアニメ製作者も少なくは無い。
時は、2012年1月。
今『新世代のガンダム』が始まろうとしていた。
【 第一話 燃え上がれ本当のガンダム 腐った時代に立て 】
アニメスタジオ。
「早速ですけど今日田中さんに来て貰ったのは、今年の10月に放送予定のアニメで、シリーズ構成をやって頂きたいと思ってるんですよ」
「はぁ・・・」
田中は、やる気のない返事をした。
「(また、シリーズ構成かよ・・・めんどくせえなあ・・・)」心の中で田中は呟いた。
この物語の主人公、田中ひろしはニュータイプでもコーディネイターでもガンダムファイターでもない、
ましてや仮面も被ってない、 シナリオライターである。
たまに小説や作詞等もしているが基本的にはアニメの脚本を書いて生活をしている。
今回このスタジオに来たのも、新しい番組のシナリオ書いて貰いたいという青山の依頼があったからだ。
しかし『シリーズ構成』となると話が違って来る。
アニメ番組等のオープニングテーマを視ていると、『シリーズ構成』という肩書きのついた人がタイトルバックに流れるのに気付くだろう。
しかしこのアニメ業界において、 この『シリーズ構成』という仕事はかなり曖昧なものだ。
単に原作モノをアニメにする時に、原作の何ページから何ページまでを、各話のアニメにするか、と決めてるだけの人もいる。
また、各会社に所属して、その番組におけるシナリオ集めを担当している人をこう呼ぶ場合もある。
さらに田中のように、オリジナルストーリーを作り出す人間を、 便宜上こう呼ぶ場合もある。
勿論、オリジナル作品を作る仕事が、シナリオライターにとってもっとも労力のいる仕事である事は間違いない。
田中が「めんどくさい」と思ったのは、この仕事をやり始めたらほとんど他の仕事が出来なくなってしまうからだった。
それに自分には「ロボット物が得意」だというレッテルが張られているのにも嫌気がさしていた。
田中ひろし、29歳。
若手のシナリオライターの中ではキャリアがある方だが、ここ数年、ロボットモノのシナリオばかり書いていたお陰で、そういうレッテルが貼られそうになっていた。
シナリオライターや作家の場合、レッテルを貼られてしまうのは時に困る場合もある。
自分としてはもっと違う分野、例えば恋愛物やスポーツ物がやりたいと思っても、仕事の依頼は同じ系統しかこないという事になってしまうからだ。
田中は近頃、もっとクリエイターとしての幅を広げたいと思っていたのだ。
「どうしたんですか田中さん、元気ないですね?」
「いやそういう訳じゃないんですけどね、ここに来るのに焦ってたもんで、少しお腹がすいてるだけなんです」
田中は、気持ちがわりとすぐに顔に出るタイプだ。
嫌そうな顔をしているのを青山に悟られないように、間抜けな言い訳をしてしまった。
「どうですか、田中さん? やって下さいよ」
「どんな作品なんですか? シリーズ構成を引き受けるにしろ断るにしても、まずそれを聞かないと」
「そりゃ、もっともな事かも知れませんけど、実際の所、どんな作品になるかがまだ決まってないんですよ・・・」
「えっ!?」
「スポンサーは決まったんですけど、本格的な企画書はこれから作っていくんです。それで田中さんにお願いして良い企画を練って頂こうと思ってるんです」
「そうですか」
田中の顔が少し引き締まった。
企画をこれから作っていかねばならないという事は、逆に言うならば『いくらでも好きなものを作れる』という事だ。
シナリオライターとして、それは大変やり甲斐のある仕事だ。
勿論労力は大変なモノになるが、簡単で、やり甲斐の無い仕事よりはずっといい。
田中の気持ちは、「やってもいいかな・・・」と言う方に少し傾いた。
「じゃあ、どんな話でもいいんですか?」
ノリかけた田中の話に、水を差すかのように青山が答えた。
「いえ。どんな話でもいい・・・というわけにはいきません」
「はぁ・・・」
「スポンサーの要望で、『ロボット』を出さなきゃいけないんです」
「(またスポンサーの要望かよ)」
と心の中で呟く田中を他所に青山は、大判のファイルボックスの中から、コピー用紙を取り出した。
「えっ、こっ・・・これ?」
青山は不適な笑みを浮かべた。
田中には血の気が引いている。
「ガン・・・だ・・・ム・・・?」
田中は驚愕した。
それもその筈、この業界を志したもので『ガンダム』に影響を受けていない者は皆無だ。
「詳しい説明は後程するとしまして」
「はっ、はい・・・」
「スポンサーは、例の玩具屋です」
日本のアニメ番組のスポンサーの八割は、玩具メーカーと食品メーカーである。
やはりアニメの視聴率の中で、子供の占める比重が大きいのが、そのもっともな理由だ。
玩具の場合は直接購買層に繋がるし、 食品メーカーにとってもお菓子を買ってくれる子供達は大事なお客様だからだ。
最近は、優良アニメは企業イメージアップにも繋がると言う考えから生命保険会社や、不動産会社がスポンサーになるケースも増えては来たが、まだまだ数は少ない。
玩具メーカーがスポンサーになる場合は、今回青山が田中に見せたように、実際にテレビ番組に登場するメカニックを玩具として売り出す事が必要絶対条件になって来る。
従って、物語はどうしてもその玩具が目立つように作らざるを得なくなってしまうというのが現状である。
そんなアニメ番組を、「単なる30分のコマーシャルに過ぎない」と言う口の悪い批評家も存在する。
実際は、自分達が作るアニメ番組に情熱の全てをかけ、子供達へのメッセージを送ろうとしている製作者達は大勢いる。
シャイなのでそういう思いは只管隠していたが、伝説のロボットアニメ『機動戦士ガンダム』の富野由悠季監督や、『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野秀明監督がそうであったように。
しかしそういう熱意は、余り社会の人々には伝わらないようである。
田中は、何本も玩具メーカーがスポンサーになっているアニメ番組のシナリオを描いてきた経験から、
「ロボット物が面白くない」とは決して思っていなかった。
何故なら『ロボットを活躍させる』という条件さえ満たせば、その中で作家のやりたい事、伝えたい事を色々と詰め込む事が出来るからだ。
繰り返すが、伝説のロボットアニメ『機動戦士ガンダム』の富野由悠季監督や、
『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野秀明監督や、『銀河漂流バイファム』の神田武幸監督や、
『機動戦艦ナデシコ』の佐藤竜雄監督や、『ラーゼフォン』の京田知己監督や、『勇者王ガオガイガー』の米たにヨシトモ監督や、『ゾイド-ZOIDS-』の加戸誉夫監督がそうであったように。
ガンダムSEEDの福田己津央監督やガンダム00の水島精二監督には、ガンダムを通して伝えたい事なんて微塵も無かったのは言うまでも無いが。
「あのですね・・・」
青山が口を開く
「はい」
「察しの通り『ガンダム』です。今の腐った世の中にこそ本物の『ガンダム』が必要なんです」
青山は対峙していたテーブルから乗り出し、田中の手を鷲掴みにする。
「Gガンダム・・・ガンダムSEED、見ましたか?」
青山は、『ガンダムの名前を借りた偽ガンダム』のタイトルを述べた。
『ガンダム』の名前は何時しかブランド化し、金儲けのためにただ作られていた。
それらの弊害の作品が、某ガンダムSEE○D等である。
作品としての質はそれなりに高いのかも知れないが、所謂、腐女子を意識している商業的な作りになっており『ガンダムである必要性』は皆無である。
田中は思ったものだ。
「今の子達はこんなものを『ガンダム』だと思うのか・・・」と。
ガンダムSEEDも、ガンダム00も、確かに『ある程度』は面白かった。
しかしどっちも「どうせ初代ガンダムには勝てねえよ」と開き直っていたのも確かな現実だ。
青山は本気で「初代ガンダムを越すガンダム」を作ろうと思っていたのだ。
そして、今の子供達に「これがガンダムだ」と胸を張って伝えたいと思っていた。
それが、今は亡き人生の師匠、富野由悠季監督への最大の供養でもあると英断していた。
【 次 回 予 告 】
YouTube - 真機動戦士ガンダム 第二話次回予告
http://www.youtube.com/watch?v=XliuI3aV9OA物語は始まった。
モビルスーツも出て来ない。
ガンダム強奪もされない。
仮面の敵キャラも出て来ない。
だが、始まってしまった。
田中ひろし。
今の世の中に、真のガンダムを送り出すため、
視聴者の子供達にとってのアムロ・レイになれるのだろうか。
・次回、真機動戦士ガンダム第二話 僕達の『ガンダム』が始まる
戦雲が田中を呼ぶ
【関連記事】
真機動戦士ガンダム 第二話『僕達のガンダムが始まる』
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