YouTube - 本当の尖閣 海上保安庁1
http://www.youtube.com/watch?v=7K09n2H_f-k金曜日の午後・・・。
いつもなら、土日の休みを喜びながらそれぞれ帰宅したり部活に打ち込んだりしている時間だが、
とある小学校のとあるクラスの『帰りの会』はまだ終わらずにいた。
動画配信サイト『YouTube』に尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件のビデオと見られる映像が流出したのだ。
その犯人探しが難航していた。
「犯人が見つかるまで、帰りの会は終わらないんだぞ!!」
担任の仙谷由人先生も、やや苛立っていた。官房長官と同姓同名とは、なんという偶然なのだろうか。
「先生! 麻生くんが犯人だと思いまーす!」
クラスで一番意地の悪いブス、眞紀子がニヤニヤしながら挙手をし、そう言う。
「そうよ、麻生くんは乱暴者だし」便乗して、ブスの清美が畳み掛ける。
標的にされて犯人に仕立て上げられようとしているのは、一部から「閣下」と呼ばれているガキ大将、麻生だった。
しかし「カップヌードルって今400円ぐらい?」と話をそらして女子達を舐めきっている。
「きいぃぃぃいいぃぃ! 何よあんたっ!!」とヒステリチックに叫ぶ女性陣。
「まあ待てお前ら、決め付けはいかんぞ。冷静に、流出した奴を突き止めるんだ。なんでもいいから手掛かりとなり得る意見を述べなさい。落ち着いてな」
と優しく生徒達を諭す仙谷由人先生。
「先生、待ってください!」落ちこぼれ揃いのこのクラスでは比較的マトモな生徒、石原が申し出る。
「なんだ?」
「これは流出じゃなくて、内部告発と言う方が適切なのでは? 結構な事ではないですか」
淡々と正論を告げる石原。
「黙れ!!」仙谷由人先生は触れてはいけないタブーを慌てて一蹴した。
「YouTubeのサーバーには、アクセスして来たユーザーのIPアドレスが記録されているんだから、アクセス情報から調べればいいと思いまーす。ついでに、見た奴等も同罪に決まってるんだから一網打尽にすればいいと思います。なんで無理なんですか?」小学生にして、銀髪に染めている小泉が無気力そうに言う。
傍観者、投稿者、傍観者、傍観者、傍観者、見てだけのゴミ、見てれば偉いと思ってる勘違いダニのアクセス情報は当然残っている。
ネットカフェ、拾った携帯、無線、プロクシ、今まで「これなら逮捕されない」と甘く見た浅はかな視野狭窄無能くんたちが悉く速攻で逮捕されてしまう程に何気に優れている日本警察なのだが、何故か今回に限っては投稿者が突き止められなかった。
仙谷由人先生は「まさか・・・」と思っていたが深くは考えない事にしていた。
「小泉・・・あそこのサーバーは海外にあるからすぐには無理なんだよ!」
正しいような間違ってるような事を言って強引になあなあと話を纏めた仙谷由人先生。
「情報によるクーデターのようなものですよこれは。厳しい話だと思わなければならない」
と、クラスで一番存在感が薄い鳩山が鋭く発言したが、誰にも気付いて貰えなかった。
「ふひひ。先生、ちょっといいですか?」クラスで一番の陰険根暗の、朝日くんがボソっと言う。
鳩山とは対照的に、悪い意味で存在感が強い生徒だ。
「なっ、なんだ?」仙谷由人先生でさえも、朝日くんを気味悪がっていた。
「YouTube何かに投稿して自己陶酔してるヒーロー気取りなんてほっとけば問題ないのでは? うひひ」
「バカかお前は! 『ヒーロー気取り』じゃなくて『ヒーローそのもの』だから困ってるんだろうが!」
朝日くんは現実、事実、真実から目を背けて妄想ばかり垂れ流しているのでクラス、
いや・・・学校中の嫌われ者だった。
まるで朝日新聞○のようだが、この物語はフィクションなので実際の人物・団体等とは一切関係なかった。
「願いまーす!」と、クラスに一人は必ずいそうな、ガリベン福田が大声を張り上げ、許可を得る。
「お前は囚人か。で、なんだ?」仙谷由人先生は犯人探しで疲労困憊しているようだった。
「客観的に見て、学力以上の頭のよさを持ってる奴以外にはわからないんでは? その動画が公開されるのがどんな事態なのか、そしてどんな事態に発展するかって事に。あなたとは違って客観的に見て」
淡々と客観的に正論を述べる福田。福田だが、仙道に対抗意識は持っていない。
「それはその通りだ。つまり、自らの思考で考える事が出来ない10000万人中9999人のバカどもは、理解出来ない、自分がバカって事認めたくなくて理解したフリをするしか出来ないだろう。だけど、10000万人中の1人は確かにこの事実を理解して、何かしら行動に移せる奴だぞ? 10000万人中の9999人は何も出来ない、何か出来た気でいるだけのゴミだから気にする必要は無いが、確かに存在するんだぞ? 学力以上の頭のよさを持ってる奴は! 携帯のネット進出でネットの利用者はバカだらけになったとはいえ、真の利用者がこの動画見たら終わりなんだよ! わかるか?」鼻息を荒くして、まくし立てる。
そして遠回しとは言え、朝日くんを認めざるを得ない発言をしてしまった事に多少の悔しさも噛みしめていた。
何故なら朝日くんは陰険根暗の嫌われ者とはいえ、少なくても「自分」を持っており、他の有象無象の自分が無い、他人の意見、顔色伺わないと物事の善悪、真偽が判断出来ない、その存在に何の恐怖も感じなくて済む、敵に回しても怖くも痒くも無い雑魚どもとは格が違うのも確かな事実なのだ。
そして、「客観的に見てその通りですね」と客観的に見て非の打ち所の無い正論に、微塵も反論の余地が無かった福田。
「もういい。埒が明かん。みんな、目をつぶれ・・・」
業を煮やした仙谷由人先生は、遂に禁じ手、お決まりの流れを出す事にした。
「みんなの前では名乗り出るのは恥ずかしくて無理なんだな? わかった。みんな、目をつぶれ!
いいか? YouTubeに、尖閣沖の中国漁船衝突ビデオ流出した奴、正直に手をあげなさい!
恥ずかしいのは、投稿した事じゃないぞ!
投稿したって事実を認められない事と、
投稿動画を見たって事実を認められない事が恥ずかしいんだぞ!」
と豪語する。やむを得ず言う通りに目をつぶる生徒達。
5分後、10分後、15分後・・・。
沈黙が続いたので、不審に思った生徒が目をあけると、
「仙谷先生・・・逃げやがったぞ!!」
「いつの間にか、菅と小沢もいなくなってるぞ!!」