「よう。森行こうぜ!」日曜の昼下がり。親友の部屋に入る早々、そう申し出る俺。
「男二人で森なんて行ってどうすんだよ・・・」予想通りの素っ気無い答えだった。
「最近さ、森ガールってのが流行ってるらしいんだよ」慣れっこなのでこんな事では引かずに続ける俺。
「なんだそれ? 森ガール?」
「俺もよくわからないけど、小栗旬主演でイケメンが森を探索する映画が話題になってるじゃん?」
「ああ、あるな」
「それの影響で、森に来るガールが増えてるって事だよきっと!!」鼻息荒くし豪語する俺。
「そうなのか」理解したような理解してないような抑揚で答える親友。
「行こうぜ? 上手く行けばお知り合いになれるかも知れないだろ。森ガールとさ」
「で、なんで二人で行く必要があるんだ?」
「お前がイケメンで俺がブサメンだからだ」速答だった。身も蓋も無かった。
それから数分後、気乗りしていなかった親友だが、なんだかんだで俺達二人は森に向かっていた。
「っていうか、森なんて徒歩で行けるのか?」と疑問をぶつけて来る親友。
「行けるよ。昔よく行ってたじゃん」ちょっと歩いたら森にたどり着ける恵まれた環境だった事をすっかり忘れていた俺達。
「そうだっけ?」
「あれ・・・?」一昔前には確かにそこには森林等の自然が溢れていた住宅を横目に、山奥へと向かう俺達。
「こんなだったかな・・・ここの景色」と子供の頃見た風景とは何かが違ったように思えて呟く俺。
「こんなだったんじゃねえの?」
「こんなだったかもな」
「こんなだったよ」
「貴重な自然を子孫に残すより、無理やり造成してるマンションや住宅地を造って残す方が大切なのかな」
「え?」俺が無意識に発してしまった奇麗事を親友は聞き逃さなかったようだ。
「いや、なんでもない」俺は照れながら遮り、足を進めた。
『立田山野外保育センター雑草の森』という看板が見えて来た。
それは、俺達が子供の頃には存在していなかった看板、施設だった。
「雑草の森だってさ。目的地じゃん、森じゃん」早く帰りたそうな親友がそう言う。
だが、俺はこの『森』に対してなんとも言い難い違和感を覚えていた。この看板からして何かがおかしい。
「いや待て。森が森だって主張したら、果たしてそれは森なのか? 俺達が感覚的に森だと思う場所こそが森だよな? 大体なんで不自然に駐車場やら道路やらがあるんだよ・・・。あそこ、自動販売機まであるじゃねえか。おかしいだろ、この森。これは森じゃなくて、人間だろ?」と、俺は哲学者を気取りながら断言してみる。だが、意味が不明だった。言ってる本人ですら。
「お前、堂本剛か何かの影響受けすぎだよ」と軽く流しながら、そこに入って行く親友。出入りは自由らしい。
「おい待てよ」と俺も続き、辺りを見回すが、森ガールらしき女性は見当たらない。
「いないな」ザッと視線をめぐらせている親友がボソっと言う。
「今日はいないのかな、森ガール」
「今日はいないのかもな、森ガール」と、Uターンする俺達。
「こんにちはあぁ」散歩をしていると思われる身長100センチ程の幼女がすれ違いざまに挨拶してくる。
「あっ、どうも」
「こんにちは」と俺に続く形で挨拶を返す親友。
「今の子、森ガールか?」振り向き、幼女が視界から消えたのを見届けた後、親友が尋ねて来る。
「おう、森ガールだ。間違いない」目的を達成したので、俺達は帰った。