「はあっ」
祝日の昼下がり。不規則な生活を過ごしており、今さっき起床したニートの青年は鬱屈し悩んでいた。
何故なら今日は、彼等にとっては忌々しいことこの上ない、『勤労感謝の日』だからだ。
「誰にも感謝されない日だな」勤労と呼ぶには程遠い日々を過ごしている彼等にとっては、
バレンタイン、クリスマスに続いて滅亡させたい日がこの日なのだ(gooランキング調べ)。
「・・・」
「!?」
だが、ふと彼にはインスピレーションがやって来た。
ニートの想像力は侮れないものがあり、ネット上で優れた書き手はニートが占める比重が大きい。
尤も、平等に24時間与えられているので、たとえ仕事に就いていたとしても彼等はネット上で面白い事は出来るだろうし、出来ない無能は結局、仕事していようが無職だろうが出来ないのである。
同じ頃、とある公園。カラーギャングのヘッドは怒り狂っていた。
『銀狼(ぎんろう)』の異名を取る彼はこの界隈の不良達に慕われ恐れられているカリスマなのだが、
勤労感謝の日には彼も不満を持っていた。
敵対するグループのヘッドが『金狼(きんろう)』の異名を取っているのが彼の怒りと不満の理由だった。
「クソ、何が金狼感謝の日だよ! なんでアイツが感謝されるのに、俺は感謝されねえんだよ!!」
金狼に感謝する日はあるのに、銀狼に感謝する日が無い不条理にずっと耐えていたが、
彼の鬱積した不満は遂に爆発したのだった。この日、決着をつけようと決意していた。
そう、銀狼はバカだったのだ。
だが、彼等の抗争はこの物語とは関係無かった。
舞台は、ニートが暮らす薄暗い一室に戻る。
ニートは、ロールプレイングゲーム(RPG)の金字塔、ドラゴンクエストシリーズ最高傑作の、
『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』を熱中プレイしていた。
世界を救う事になる主人公の勇者の名前は平仮名限定で4文字まで付けられるのだが、
『きんろう』だった。
そして数時間後、ギネスに掲載されている魔王ゾーマ撃破の最速時間の3時間36分を塗り替え、
彼は3時間弱でクリアーした。
王様や町人たちからは「ありがとう、きんろう」と感謝された。
「よっしゃああああ!! 俺の分身の、勇者きんろうが感謝されてるうぅぅぅ!!」
この日、魔王を倒し世界を救ったきんろうは多くの人から感謝された。
そう・・・これが本当の『勤労感謝の日』だったのだ。
「・・・!?」目覚めるニート。
「なんだ、夢か」夢オチだった。そもそも、このニートはドラクエ3を持ってなかった。
そして、慌てて携帯画面の右上を確認するニート。
11/24 と表示されている。
「よしよし」と、感謝されない勤労感謝の日を上手く切り抜ける事に成功し、ほくそ笑むニート。
「11月22日の夜に睡眠薬を大量服用したからな。さすが俺だぜ」