夕方、吉野家某店舗。
夕飯時だというのに、店内には現在の内閣総理大臣の人数ぐらいの客しかいない。
そこに、KinKiKids(キンキキッズ)30枚目のニューシングルにして最高傑作の、Family~ひとつになること(作詞:堂本剛)を作曲した、堂本光一似の青年が来店する。
「牛丼並盛りください」と、カウンター席に座ると同時に店員に注文する。
「へいっ! 牛丼並盛り一丁、入ります!!」店内にこだまする元気な声。
そして数分後、運ばれて来る。
堂本光一似の客はカバンから弁当箱を取り出し、開封する。
中には、充分に加熱したと思われる大量の牛肉が入っている。
「ちょっ、ちょっとお客さん・・・。なんですか?」呆気にとられた店員が尋ねる。
「何って? 俺はタマネギ丼を頼んだろ? だから持参した牛をオカズにタマネギ丼を食べるんだが?」
「タマネギ丼なんて、メニューにありませんけど・・・」
「バカかお前は。吉野家での『牛丼ください』は『タマネギ丼ください』と同義だろうが」
淡々と正論を述べる、堂本光一似の青年。
「そんな!?」
「やれやれ、若いな」タマネギ丼を注文した堂本光一似の客の師匠が来店する。
「師匠!?」
「温かいお茶を貰えるかのう」
「はい。お茶ですね。ご注文は?」
「ご馳走様」と立ち去る師匠。その直後、近くにあった松屋に入って行った。
「えぇっ!?」なにやら納得がいかない様子の店員。
「流石は師匠だ!!」感心する愛弟子。
「・・・」呆れている店員。
「じゃあ俺も帰ります。タマネギ丼ご馳走様。釣りはいらないぜ」
と、牛丼並盛り一杯分丁度の代金を支払い、去って行く青年。
丼の中には半分以上ご飯が残っている。
「なんだったんだ、今の客は・・・。タマネギ丼とは失礼な」
カツラの人に、カツラですよね?と言うのは無礼千万極まりない暴言だ。つまり、本当の事だからこそ言わないのが最低限の礼節なのではないだろうか?と店員は思っていたのだ。
長い事このバイトをしているので変な客とも数え切れないぐらい遭遇して来たが、今のようなタイプは初めてであった。
しかし思慮に耽る暇も無く、次の客が来店した。
夕飯時に四人も来店するとは、吉野家では珍しい事だ。
「へいらっしゃああいいいい!!」気を取り直し接客に励む店員。
「すいません、牛丼並盛りください」
「へい! タマネギ丼並盛り一丁入りましたあぁ!!」不意に、本音が出てしまった。
「タマネギ丼?」バックヤードから出て来た店長が、不審な目を向ける。
「しまった!!」
この店員はクビになり、後日、すき家で働いていた。
吉野家で働いていた頃と違い、胸を張って「牛丼並盛り一丁入りましたあぁぁあぁぁっ!!」と言える。
何故なら、吉野家の実質タマネギ丼と違い、正真正銘の牛丼だからだ。
大量の肉が乗ってある写真とは対照的に実物が全く違う、詐欺同然の行為をしなくて済むからだ。
「タマネギ丼のチェーン店吉野家を辞めて、牛丼屋のチェーン店すき家で働いてます!!」
と胸を張って声高に言えるのだ。やっとこの店員は正直に人間らしく生きられるのだ。
一方吉野家は本日倒産し、無能経営者たちはタマネギの芽で首を吊っていた。
その事実をネットのニュースで知ったデブは「うしし」と笑っていた。