
熊本県熊本市。ここに住む、KinKiKids(キンキキッズ)30枚目のニューシングルにして最高傑作の、Family~ひとつになること(作詞:堂本剛)を作曲した堂本光一ばりのイケメンだが今ひとつパッとしない青年は、 何気なく立ち寄った図書館で偶然目に入り、タイトルに惹かれて借りた『水の全て(著:加持リョウジ)』という本を読み耽っていた。
58頁に、「この世から水が無くなったら、木しげる、嶋ヒロ、樹奈々、戸黄門、曜どうでしょう、になってしまいます!!」と書かれていた時は、あまりのくだらなさに焼却処分してやろうかとも思ったが、なんとか思い止まり読み進めている。
本書の124頁の『水は生き物』という章によると、
「コップに入った水に対して目の前で、死ね!と言ったら水は不味くなる。ありがとう・・・と感謝したら水は美味くなる。水も生き物だからです。水も生きているのです。つまり、水も人も同じなんです。常に感謝の心を持ちましょう!!」らしい。
「本当かよ・・・」
疑いつつも青年の知的好奇心は刺激され、蛇口を捻りコップに水を入れ、テーブルの上に置いている。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね金死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねっっ!!」
と水が入ったコップに対し、視線と意識を逸らさず連呼する。
「もういいかな」と、それをゴクゴクと飲み干す。
「・・・」しばしの沈黙の後、再びコップに水を入れ、テーブルの上に置いた。
「ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。有賀党。ありがとう。ありがとう」
と水に感謝し、一滴残らずそれも飲み干す。
「・・・」
かなりの沈黙の後、充電器から携帯電話を取り出し電源を入れると、留守電が入っていた。
「葛城、俺だ・・・。多分この話を聞いてる時は君に多大な迷惑をかけた後だと思う・・・。すまない。もし、もう一度会える事があったら、その時はこの前言いそびれた言葉を言うよ。葛城、真実は君と共にある。迷わず進んでくれ・・・」
なにやら渋い男の声だったが、聞き覚えが無い。
「なんだ、間違い電話か」
気を取り直し携帯のアドレス帳を開き、十字キーの『⇒』を三回押し、『た』の欄に持ってくる。
そして『田中』を選び、『発信』を押す。
「あなたに~会いたくて~会いたくて~」と臭い着信音の後、親友の田中が出る。
「おう。どうした??」
「あのさ田中。凄い大発見したぞ!!」ワザとらしく興奮気味に語る青年。
「ん?」
「水が入ったコップに『ありがとう』って感謝したら水は美味しくなる! 反対に『死ね』って言ったら水は不味くなる・・・。何故なら、水は生き物だからだ・・・!! 俺は『いきものがかり』のファンだ!!!」
と一方的に力説した後、電話を切る青年。
「なんだったんだ今のは・・・」要領を得ず、首を傾げる田中。
「でも・・・。もしかして・・・、」何故か台所に向かう田中。
数十分後。
「あっ、佐藤? 田中だけど・・・。凄い大発見してしまった!! 水が入ったコップに『ありがとう』って感謝したら水は美味しくなる! 反対に『死ね』って言ったら水は不味くなる・・・。何故かって? 水は生き物だからさ・・・!!」