(親を殺したい。親を殺したい。親を殺したい)
ブツブツつぶやいている、サトシ。
カバンの中には、包丁が入っている。
バスに乗り込むと、自分以外の乗客は、母親と赤ん坊、辛気臭い顔をしているデブ、老人、だけだった。
(親を殺したい。親を殺したい。親を殺したい)
やはりブツブツつぶやいている、サトシ。
バスが走り出してから、約二分後。
デブが立ち上がり、カバンの中から包丁を取り出す。
「殺す。全員死ね。コロス。全員死ね」鼻息荒く、そう告げるデブ。
「おぎゃあああああああああ」赤ん坊の声だけが、車内に響き渡る。
「ウザい。お前から殺してやろうか」赤ん坊に近付く、デブ。
老人は小便を漏らし、失神している。
運転手は、人気女性歌手、西野カナの曲を歌っている。「会いたくて会いたくて」と。
「おっ、お願いします……。私の命はどうなってもいいので、この子だけは見逃してください」
とってつけたようなセリフで泣きながらすがる、母親。
「はははははははははははははははははははははははははははは」
(親を殺したい。親を殺したい。親を殺したい)とつぶやいていた、サトシが笑いながらデブに近付く。
「なんだてめえ。こっ、殺すぞ!?」震えながら包丁をちらつかせる、デブ。
「その赤ん坊が死んだら親が悲しむけど、俺が死んだら親が喜ぶ。だから俺を殺せ」
淡々とそう告げるサトシ。
「いっ、意味がわからねえ……。キチガイか、お前!?」
怖がり、包丁を落としてしまう、デブ。
「あぁ。ああああぁ。あああああ。あああああああ」
とため息に似た声を出しながら、カバンの中から包丁を取り出すサトシ。
「こんな事しない方が、どうかしてんだよ……」と泣き喚くサトシ。