私立桜が丘高等学校の軽音(けいおん!)楽部に所属する女子高生、平沢唯は悩んでいた。
ギターとボーカルを担当しているのだが、自分のレベルが他の部員達、
ベース(秋山澪)、ドラムス(田井中律)、キーボード(琴吹紬)、リズムギター(唯一の一年生、あずにゃん)。
に比べると、明らかに劣っており足手まといになっているからだ……。
(顔と性格も、明らかに劣っているが^-^;。ブス死ね)
「はぁっ、どうやったらギターと歌って上手くなるんだろう……」
と嘆きながら、1人帰宅していたら、噴水前でギターを弾き語っている青年がふと視界に入る。
とても高度なギターテクニック、透き通るような声量。
見惚れている自分に気付く唯。
気が付けば、彼の歌声に魅了される人々が集まっていた。
「すっ、凄い……この人」
「んっ……」
「つд⊂)ゴシゴシ (;゚д゚)……」
なんと、その青年の正体が、国民的アイドルデュオ、キンキキッズの堂本剛だった事に気付く。
アイドルには特に興味ない唯だったのだが、そんな彼女でも名前ぐらいは知っている存在だ。
しかし、そのギターテクニック、歌声はアイドルの領域を明らかに超えていたものだった。
今そこに降りてくる嘘偽り無い確かな本当の感覚で……、
心で、魂で、空で、リアル(本当)で、フェイク(嘘)を潰して、優しさで、愛で……愛を奏でている。
「あっ、あの……!!」歌が終わり一息ついてる所に近付き、勇気を持って声をかける唯。
「んっ?」快く視線を返してくれる、堂本剛。
「私に、ギターを教えてください!! それと、音楽が上手くなる秘訣も教えてください!!」
興奮した唯は、物凄い勢いでまくし立てた。
「自分、上手くなりたいん?」と疑問をぶつける剛。
「はい。私、軽音楽部なんですけど、私だけ下手で音痴なんです……」
うつむきながら答える唯。
「音楽っちゅーのはなぁっ……」ぽろろん♪
「音を楽しむものなんや。だから、音楽なんや」と豪語する剛。
「音を……楽しむ?」
「思いのままに、心のままに、愛のままに奏でるんや。それが君の、君だけの君によるオリジナルな音楽や」
瞳をキラキラさせながらそう告げる、剛。
「下手でも、いいんですかっ……???」少し涙目になりながら尋ねる、唯。
「当たり前や!! そこに薄汚い大人の金儲けが入るなら話は別やけど、部活やろ? 純粋に、面倒なものに巻き込まれず、奏でられるんやろ? そんな恵まれた環境で、上手いだの下手だの気にしてらアカんて!!」
自分が置かれている環境から培った、説得力のある助言だった。
「はいっ、はい……」ただただ感銘を受け、泣き崩れている唯。
「ごめんな。泣かすつもりはなかったんや……。自分、名前はなんて云うん?」
「あっ、ごめんなさい……。唯です。平沢唯」
「唯、いい名前や……俺達は、縁を結(ゆ)いて、生きているんや。この素晴らしき日本でな」
と言い終えると、帰り支度を始めている堂本剛。
「あのっ!!」
「ん?」
「また、会えますか?」
「逢えるに決まってるやろ。これからは、俺が奏でる音楽には君が宿るし、
君が奏でる音楽には、俺が宿るんやから……そうやろ?」
ニコっ。芸能人特有の作り笑顔では無く、心からの笑顔だ。本当に真っ直ぐな人なのだろうと唯は思った。
「!?」
「はいっ」
満面の笑みでそう返す、唯。もう彼女の心からは、迷いと悩みは消えた。ただ、音を楽しむ気持ちだけが宿った。
「変われない」を知ってても、「変われる」を知ってる魂。
ありえないバカげた感覚……武道館ライヴをひたすらに思う軽音楽部。